大判例

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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8997号 判決 1958年3月22日

昭和三十年(ワ)第七四七二号事件原告参加承継人

昭和三十年(ワ)第八九九七号事件独立参加被告参加承継人

昭和三十二年(ワ)第二二九八号の二事件反訴原告 大和電機株式会社

右代表者 安西民男

右代理人弁護士 中野富次男

昭和三十年(ワ)第七四七二号事件原告

同年(ワ)第八九九七号事件独立参加被告

(昭和三十二年(ワ)第二二九八号の一事件譲受参加人の参加により脱退) 佐藤栄二

昭和三十年(ワ)第七四七二号事件被告

同年(ワ)第八九九七号事件独立参加被告 日本冶金工業株式会社

右代表者 森暁

右代理人弁護士 成富信夫

<外三名>

昭和三十年(ワ)第八九九七号事件独立参加原告

昭和三十二年(ワ)第二二九八号の二事件反訴被告 藤倉電線株式会社

右代表者 石橋五郎

右代理人弁護士 田辺恒之

<外三名>

主文

1、日本冶金工業株式会社は藤倉電線株式会社に対して金百十六万三百十円及びこれに対する昭和三十年十一月二十九日からその支払のすむまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2、大和電機株式会社が昭和二十九年七月初頃から昭和三十年三月下旬までの間日本冶金工業株式会社に対して電線等を売り渡した売買代金残金百十六万三百十円の支払請求権が藤倉電線株式会社に帰属していることを確認する。

3、大和電機株式会社の日本冶金工業株式会社及び藤倉電線株式会社に対する請求はいずれも棄却する。

4、訴訟費用のうち藤倉電線株式会社と日本冶金工業株式会社との間に生じた部分は日本冶金工業株式会社の負担とし、その余はすべて大和電機株式会社の負担とする。

5、この判決のうち主文第一項は、藤倉電線株式会社が金二十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、大和電機が電線等の買受及び販売の業を営む株式会社であつて、昭和二十九年七月初頃から昭和三十年三月下旬までの間に日本冶金に対して電線等を売り渡し、その売買代金残金百十六万三百十円の支払請求権(本件債権)を有していたことは、全当事者間に争がない。

二、成立について全当事者間に争のない甲第八号証、乙第一号証、丙第六、七号証の各一、二と証人矢島庸造の証言及び大和電機代表者安西民男尋問の結果によつて成立を認めることのできる甲第三号証及び丙第三号証から第五号証まで並びに証人矢島庸造の証言及び大和電機代表者安西民男尋問の結果(但し丙第六号証の二及び大和電機代表者安西民男尋問の結果は、後記の信用できない部分を除く。)とを綜合すると、次の事実を認めることができる。

大和電機は昭和二十六年四月十三日設立された会社であつて、その設立のときから昭和三十年三月二十九日頃まで藤倉電線の特約代理店として、電線等の商品を藤倉電線から仕入れ、これを他の特定の商社に転売していた。当初は大和電機が売つた物件は藤倉電線が買受商社に直送し、代金は一切大和電機が買受商社から受領したものをそのまま藤倉電線に納入し、その後藤倉電線から大和電機に対して代金の一・五%ないし五%の販売手数料を支払うことにしていた。ところが、昭和二十八年末頃以後は、小口取引先に対する売買について、勘定口座なるものが大和電機と藤倉電線との間に設定され、この代金は大和電機が買受商社から受領したものを適宜操作して藤倉電線に納入することができる代りに、この代金の納入については大和電機が藤倉電線に対して担保を提供し、藤倉電線はこの担保と、勘定取引における大和電機に対する売掛残金とを見合わせて適宜出荷の制限を加えることとした。そして大口取引先に対する売買の代金は従前と同様とし、これをA勘定取引と称することとなつた。ところで、藤倉電線はその特約代理店に対して順次業務上の監査をしていたが、大和電機から藤倉電線に対する報告によるとA勘定取引における訴外日本車輌製造株式会社に対する売掛残金が金三千二百四十万四千三十六円という多額に達していたので不審に思い、昭和二十九年十一月頃大和電機に対して監査をしたいと申し入れた。こうして、昭和三十年一月二十日頃大和電機から総勘定元帳残高表の呈示を受け、同年二月十一日大和電機の帳簿を閲覧して調査を加えたところ、その結果大和電機がA勘定取引により買受商社から支払を受けた代金のうち藤倉電線に納入しないで流用しているものが約金千四百万円あることが判明した。そして、大和電機は藤倉電線からの追及により同月十二日A勘定取入により買受商社から支払をうけた代金の内金四百六十二万二千円を流用したことを認め、この流用金の返済について同月二十五日までに返済計画をたてて、藤倉電線に回答することを約束した。ところが大和電機は同月二十一日頃藤倉電線に対して日本車輌製造株式会社に対する売掛残金についての従前の報告は虚偽の報告であつて、実際はこの残金が金二百四十万四千百三十六円しかないと申し入れてきた。そこで、藤倉電線はあらためて、大和電機から未払代金がいくらあるかを確定し、その取立方法をきめるため大和電機と協議することとなり同月二十五日藤倉電線の応接室において藤倉電線側から荒井常務取締役、高橋営業部長、田坂販売課長及び矢島監理課長が、大和電機側から代表取締役安西民男及び専務取締役鈴木正治が参集して協議した。その結果、大和電機が買受商社から支払を受けた代金で藤倉電線にまだ納入していないものがいくらあるかを確定するため藤倉電線は大和電機の経営に対して実態監査を加えること、大和電機の資産が減少して藤倉電線が未納代金を回収することができなくなることを防ぐため藤倉電線はできる限りの方法で大和電機の経営を管理すること、大和電機はこの管理の便に資するため藤倉電線に対して、社印、社長印、帳簿及び小切手帳の管理を任せること並びに大和電機がその有する小切手、銀行定期預金、受取手形、商品、有価証券及び売掛債権等の資産をすべて前記未納代金の支払のために藤倉電線に譲渡し、藤倉電線はこれを換金して未納代金債権に対する弁済に充当することという約束が大和電機と藤倉電線との間で成立した。そしてこの約束に基き、藤倉電線は直ちに大和電機から社印、社長印、帳簿及び小切手帳等の引渡を受け、大和電機の経営を管理する一方大和電機の経営に対する実態監査を進めた結果、同年三月二十七日現在において大和電機の藤倉電線に対する未納代金は約金五千六百万円であり、その内約金三千二百万円はA勘定取引による代金の流用であることが判明した。その間藤倉電線は同年二月二十五日から同年三月二十七日までの間に大和電機から、この未納代金債権に対する弁済として現金二万五千円、小切手金約百五十万円、及び銀行定期預金約百五万円の交付を受け、更に、藤倉電線の手で換金して以上の未納代金債権に対する弁済金に充当するという趣旨で大和電機からその資産の大部分である受取手形四十七枚、商品、有価証券、電話加入権及び売掛債権を譲り受けたが、その一環として同年三月二十七日頃大和電機から本件債権を譲り受け、これについて同月二十七日両者間で別紙のとおりの譲渡証書を作成し、この証書を同月二十九日藤倉電線が大和電機からの依頼により日本冶金に対して送付した。

大和電機はその再建について藤倉電線から援助をしてもらう約束で本件契約を結んだのであると主張するけれども、大和電機代表者安西民男尋問の結果によつて成立を認めることのできる甲第六号証の一、同第七号証及同第九号証、前記丙第六号証の二と大和電機代表者安西民男尋問結果のうちこの主張にそう部分は信用できないし、ほかにこの主張を認めて前記認定を動かすことのできる証拠はない。

三、大和電機は、本件債権の譲渡は、大和電機の有する資産のすべてを藤倉電線に譲渡することを約した契約の一環として行われたもので、かような契約は商法第二百四十五条に該当し又はその趣旨からみて商法第三百四十三条所定の特別決議を要するのにこれを経ていないから無効であると主張する。しかしながら、大和電機がその資産をすべて藤倉電線に譲渡することを約束したのは藤倉電線に対する未納代金の支払のために、藤倉電線においてこれらの資産を換金して未納代金債権に対する弁済に充当するという趣旨の下に行われたものであることは既に認定したとおりであつて、かように会社がその債務の支払のために会社の資産を債権者に提供することは商法第二百四十五条第一項第一号にいう営業の譲渡には当らないし、これについて同法第三百四十三条所定の特別決議を経る必要はないと解するのが相当である。

四、次に大和電機は、本件債権の譲渡が錯誤ないし詐欺による意思表示であると抗争し、その根拠として、大和電機がその資産のすべてを藤倉電線に譲渡することを約束した際その代償として藤倉電線から大和電機の営業不振を打開するための援助が与えられると信じていたと主張するけれども、甲第六号証の一、同第七号証及び丙第六号証の二と大和電機代表者安西民男尋問の結果のうち、この主張に付合する供述及び記載は丙第七号証の二及び証人矢島庸造の証言と対照すると直ちに信用できないし、ほかに大和電機が本件債権を藤倉電線に譲渡するときより前に藤倉電線からの援助を期待していた事実を認めることのできる証拠はない。従つて、大和電機の主張は、いずれも採用し難い。

五、してみると、その余の争点について判断を加えるまでもなく、大和電機から日本冶金及び藤倉電線に対する請求は失当であり、藤倉電線から大和電機との間で本件債権が藤倉電線に帰属していることの確認を求める部分は正当であることが明らかである。

六、そして、藤倉電線と大和電機との間で作成された本件債権の譲渡証書が昭和三十年三月三十日日本冶金に到達したことは、日本冶金の認めるところであるから、日本冶金は藤倉電線に対して本件債権金百十六万三百十円及びこれに対する昭和三十年(ワ)第八九九七号事件参加申出書が日本冶金に到達した日の翌日であることが記録上明かな昭和三十年十一月二十九日からその支払のすむまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、日本冶金に対してこの義務の履行を求める藤倉電線の請求は正当である。

七、以上の理由により、大和電機の請求は失当であるから棄却し、藤倉電線の請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古関敏正 裁判官 山本卓 松本武)

<以下省略>

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